図書館を歩いていて、借りてしまったうちの一冊である。
二週間でそんなに読めるものではないのに、つい何冊も借りてしまう。
「風土記」は、奈良時代に官命によって地方の国衙に提出させた報告書であり、主に漢文で書かれている。
おそらくすべての国衙から提出されたものと思われるが、現在完全な形で残っているのは、「出雲国風土記」のみである。
一部欠損した形で残っているのが、「播磨国風土記」、「肥前国風土記」、「常陸国風土記」、「豊後国風土記」である。
報告を求めているのは、次の五項目である。
1 郡、郷の名には、好字をつけよ
2 銀、銅、彩色、草木、禽獣、魚虫等の色目
3 土地の肥沃
4 山川、原野の名号の所由
5 古老相伝の旧聞、異事
これで不思議なのは、2から5までは現状を報告しなさいということなのに、1は、現にある郡、郷の名をよき字に変えなさいとなっていて、まったく性格の異なる内容になっている。
考えられるのは、この時点でかなりの郡名、郷名について、それまで使われていた字が変えられただろうということである。
それなりにその字を使う理由があったものが、縁起の良い字に変えられたのである。
読み方はそのままであるにしても、元々がどのような字だったが忘れられれば、新しい名前の字が一人歩きしてしまう。
字を変えるだけではなく、地名そのものを全く変えてしまった例が近所にある。
]光ヶ丘や緑ヶ丘である。
歴史も何も感じられない。その土地の歴史はどこへ行ってしまったんだ、と思うばかりである。
こういうことは、地名だけではなく、姓氏や名字にもありそうだ。
思いついたのは、「木梨」という名字。
「亀梨」というのもある。
亀と梨はどう考えても繋がらないので、たぶん「木梨」の木を、縁起の良い「亀」に変えて、「亀梨」で「きなし」と言っていたのが、亀が一人歩きして「かめなし」になったのか、とも考えられる。
木梨というのは、山梨のことかなと思ったので、調べてみた。
木梨は、カリンのことだった。
子どものころ、農家の敷地に梨の木があった。
小ぶりで果実がついたが、なんでも食べる田舎の子どもたちも手を出さなかった。
硬くて、甘さもなくまずかった。
これが山梨で、日本で今栽培している梨の原種らしい。
でも、ミチノクヤマナシというのもあるらしいので、そちらの可能性もあるかな。