ディック・フランシスの「出走」という文庫本を読み終わった。
ディック・フランシスについては、しばらく前に「競馬ミステリーの巨匠 ディック・フランシス」という文章を書いた。
彼の作品については、40冊くらいある文庫本のうち半分くらい読んでいると思う。
先日、図書館行った時に、しばらく読んでなかったディック・フランシスを再開しようと思った。
どの辺まで読んでいるかわからないので、作品番号の大きい作品を選んだ。
「出走」は、「HM フ 1 38」となっていた。
HMはハヤカワミステリーのことで、「フ 1」が、ディック・フランシス、38が作品番号だと思う。
「出走」は、原題が「Fields of 13」で、1998年に刊行され、2004年にハヤカワミステリー文庫として出版された。
読んでみて驚いたのだが、この本は短編集である。
彼が、短編作品を書いていることを知らなかった。
Fields of 13というタイトルは、13の短編作品から成ってるということのようだ。
今まで読んだ彼の本は、全部長編作品だった。
登場舞台が競馬に関わるところで、登場人物が競馬に関わっていることは、共通している。
一編が30ページ前後で、全体では400ページを越える。
短編なので、読みやすく、ほとんどが最後にオチがある。
場合によっては、最後の一行で、エッとなる。
書き方がうまいので、大事なことが伏せられていて話が進むので、これはどういうことなんだろと思わせて、最後に種明かしみたいな感じかな。
ディック・フランシスは、イギリスの方なので、英国風の文章なのかもしれない。
思わず笑ってしまうユーモアや、皮肉、そしてまわりくどい言いまわし。
どういうこと? もう一度読み返したりする。
13の短編の作品名は、次のとおりである。
キングダム・ヒル競馬場の略奪 Raid at Kingdom Hill
レッド Dead on Red
モナに捧げる歌 Song for Mona
ブライト・ホワイト・スター Bright White Star
衝突 Collision Course
悪夢 Nightmare
強襲 Carrot for a Chestnut
特種 The Gift
春の憂鬱 Spring Fever
ブラインド・チャンス Blind Chance
迷路 Corkscrew
敗者ばかりの日 The Day of the Losers
波紋 Haig's Death
競馬に関わる人たちが、登場する。
馬主、騎手、調教師、厩舎員、はもちろんである。
馬泥棒、競馬新聞の編集長、競馬新聞の記者、競馬の写真判定用カメラ操作員、銀行強盗犯人、決勝審判員、などがこの短編集に登場している。
ほとんどに犯罪が絡んでいるが、ミステリーにありがちな血なまぐさいものはない。
唯一の例外なのが、「レッド」である。
イギリスの騎手が、ライバルの騎手の殺害をフランスの殺し屋に依頼する、という今まで作品からは考えられない設定だった。
これも、もちろん最後にはオチがある。
私は、競馬も馬にもほとんど興味がない人間である。
それでも、ディック・フランシスの小説は楽しんで読める。
今回の短編集は、それぞれが短いので読みやすいのは確かだが、短いわりには登場人物が多い。
それだけ、競馬というものが多くの人々によって支えられているものだとも言えるのかもしれない。
いろいろな人々の人生が交差して、物語が進んでいくのである。
だから、読み終わった後に充実感がある。
ディック・フランシスにちょっと興味があって、読んでみようかなという人には、この「出走」は、入門用にいいと思うので、おすすめします。