晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

わかこゝろ⑦ 菅江真澄テキスト

  いくとせかこゝろにかけて姨捨のやまにこよひぞ見つる月かげ     僧洞 月
 
  あくがれてをばすて山にみる月のくまなきかげやよもにめづらん     永 通
 
  名にたかき姨捨山にこよひみん月のむしろにまどゐあかして       啓 基
 
  をば捨の山のまどゐに見る月のさやけきそらにかたるいにしへ      富 女
 
  うちむかふこゝろのくまもなかりけりをばすて山の月のひかりに     義 親  
 
  こよひ見るをばすて山にてる月のふけゆくまゝにしのぶいにしへ     直 堅
 
  くまなさよなぐさめかねしむかしさへ月にぞしるき姨捨のやま      秀 雄
 
  いとゞ猶あらしの音も身にしみて姨すてやまに月ぞすみぬる      僧藍 水
 
  余所よりも月のながめのいや高きこよひ名だたるをばすての山      備 勝
 
  いく秋も光かはらでをばすての山にさやけき月やながめん        勝 女
 
  影清く光を見てしをばすてのやまのはいづるあきの夜の月        当 特
 
  名に高き姨捨山の秋の月さやけき影は世にたぐひなき          静 有
 
  さやけさはたぐひあらじな名にたかき姨捨山の秋のよの月        景 富
 
       月 出 山
  あらはれてみねのいくへのやまかつらあかつきかけて出る月かげ     秀 雄
 
  うき雲はよそに尽してふく風のきよき高根をいづる月かげ        直 堅
 
  うちむかふ更級やまの高ねよりくまなくいづる夜半の月かげ       永 通
 
  おほ空の星の光もいろきえてやゝさしいづる山のはの月         洞 月
 
  庭の面にふりしく雪と見るほどに山のは晴ていづる月かげ        藍 水
 
  待つけて山のはいづる月かげにすそ野のすゝきつゆごとにみゆ      備 勝
 
  いくゆふべこよひの空をまちつけて山のはいづる月のくまなさ      義 親
 
  名にたがき姨捨山をいづるより空すみはるゝあきのよの月        静 有
 
  かげばかりほのめく空にいろ見せてやゝしのぼるやまのはの月      当 特
 
  山たかみ木末をはらふ夕風にさそはれいづる月のさやけさ        景 富
 
       山 月 明
  さしのぼる空にさやけき月かげの光にしるし遠のやま/\        永 通
 
  夜とともにまつかひありてやまのはの月ぞさやかにすみのぼりぬる    洞 月
 
  ながめやる遠山烏のをのへよりみねもふもとも月にさやけき       秀 雄
 
  てりのぼるこよひの月の影すみて光も清きさらしなのやま        直 堅
 
  村雨のはれ行あとの雲間よりもれてさやけきやまのはの月        藍 水
 
  月もやゝ山のは出てめに近きちくまのながれ光てりそふ         備 勝
 
  幾秋をふる露霜にさらしなやさやかに木々もみねの月かげ        義 親
 
  名にたかき姨捨山にてる月はわきてさやけきあきの夜の月        景 富
 
  秋風に空吹はれてやまのはをさやかに見せていづる月かげ        静 有
 
       月 前 風
  秋風にみねのうき雲ふきはれて空すみのぼる月のさやけさ        景 富
 
  久堅の空ふきはらふあき風に光さやけき月をこそ見れ          当 特
 
  ひさかたの空はかはらぬ風ふきていとゞてりそふ秋のよの月       静 有
 
  やま風にそら行雲のかげきえてさやかに更るあきのよの月        直 堅
 
  うしやこよひ月にふりくる時雨かとまがふいほりの軒のまつ風      洞 月
 
  いでぬまも声あらはれて月影にかぜのやどりのまつをこそ見れ      秀 雄
 
  吹風にむら雲だにもかげ消えていとゞさやけきあきのよの月       永 通
 
  萩が枝のした葉の露も月澄て玉吹こぼす野辺の秋風           藍 水
 
  更級のみねの秋風吹はれていでぬる月の光さやけき           備 勝
 
  吹はらふ風のたよりを松が枝の葉ずゑをもるゝ月のさやけさ       義 親
 
       月 前 恋
  またじとはおもひ捨てもまたれぬる月にこととふならひある世は     永 通
 
  うき人もこよひの月にあくがれてしたふこゝろは空にへだてじ      直 堅
 
  人くやと契らぬ宵もねやの戸の月のながめのこゝろまよひに       秀 雄
 
  更級や姨捨山の月見ても猶したはるゝ人のをもかげ           洞 月
 
  うかりける人をまちわびうちむかふ月もなかばの空をすぎぬる      藍 水
 
  姨捨の月のこよひぞあはれけふ猶恋しきはふるさとのそら        備 勝
 
  契ても此夕ぐれはいかゞせんさやけきつきにうしろめたさは       義 親
 
  まちわびし夜半こそふくれいましばしさやけき月になぐさみぬとも    当 特
 
  こぬ人をまつもかひなきこよひかなそらにふけ行月もうらめし      静 有
 
  まちわびし袖のなみだの露ながらうつるもつらし夜半の月かげ      景 富
 
       寄 月 祝
  幾世々を姨捨山にてるかげは猶ひさかたの月ぞえならぬ         洞 月
 
  いくちよの秋もつきせじたのしみもなかばにあらぬもち月のかげ     秀 雄
 
  言の葉にむすべる露の玉鉾の道あきらけきみよの月かげ         直 堅
 
  神世よりかはらぬ空の月かげは猶行すゑのかぎりしられぬ        永 通
 
  くもりなき秋の最中の月かげやよろづ代うつすかゞみなるらん      藍 水
 
  いくとせもかぎりしられじ姨捨のやまの名てらす秋のよの月       備 勝
 
  くもりなき御世のためしぞ久かたのそらにかゝれる月のひかりは     義 親
 
  かしこしなくもりなき世はいとゞ猶月にちとせの秋ぞまたるゝ      静 有
 
  あふげたゞかしこきみよのあきらけき月のめぐみの空につきせじ     当 特
 
  がぎりなくてらすこよひの月かげはくもらぬ御世のしるしなるらし    景 富