長殿よりは四人めのしもとやらん、山吹の袂なるが、ゆだすきかけて待居給へば、上下きたる男、藤刀といふもの、ちいさき御錦の?より取出して、ぬきはなちてそお長殿にわたす。
長殿とりて、山吹色なるそうぞくしたる祝にわたす。
そのかたなを、柱のうへにおきてのち、又、長き繩とりもてわたす。
ゆだすきしたる祝、刀にひとしく柱のかしらよりあてゝ、きだみつけて、さわらの枝、柳の枝、きさのさえだ、かのはなもてゆふ。
又、矢一もとゆふ。
又、三の枝をゆふ。
はかた矢一もとゆふ。
又、かたなにひとしくくらひて、きだみめつけて、二ところゆふ。
前に同じ。
かく左右ゆひわかちて、なはのこれば、藤刀に合てきりはなちてけり。
又、柏のかれ葉に糀もりて、折箸にてぬひとをして、ふたつ糀もちてふたつかく。
四ツをその御柱にさして、やの中ほどの処に立て、はらへよみ給ふに、北なるやにて、御神楽の声きこへぬ。
かしは手三ツ聞えて、後はかぐらやみぬ。
かの御神の童を、桑の木の膜を繩によりていましめて、其なはかくるとき、たヾまづ/\とよぶ。
ともしやしてとらす。
祝らん箱なるふみよみ行ひてのち、大紋きたる男わらはをおひてまかり出る。
長殿藤かづら茂りたる木のもとにむかひて、やつくりたりしとき、やねさせるひなのときものを、八ツなげ給ふやつがりにやありけん。
又すはのくにのつかさよりまいらせ給ふ、馬のかしらをねんじて、なげ給ふ。
此馬いととくはしらせて、小供らあまた追めぐる。
そがあとより御贄柱かたげて、御神のわらはおひたる男、はたおほん宝といひて、ながき鈴のごとやうなるものを五ツ、錦の?に入て、木の枝にかけて、そろ/\とはしりて、はしりめぐること七たびにしてみなかへりぬ。
長殿の庭に御社あるなる、そが御前にて、あらはのなはときてはなし給ふとなん。
御祝のつかさは明神の御末のながれにて、御くに司もおなじ。
長殿も守屋のをとゞの御末にてわたらせ給ふとかや。
其かへるさ、ふげん堂の花を見つゝ行ば、はや酉のときちかし。
御社を拝みてかへる。
林常世のぬしは、道にてふとまみへし人ながら、ものねもごろにかたらひて、こよひはあがもとにといひて、同じみちをかへる。
夕月夜のかげ、海つらにうつるなどおかし。
この海を鵝湖といひけることは、もろこしに信州といふところに、水うみあれば、それにたぐらて、からうたの家より名づけつ。
小坂といふ処にいとよき桜ありけるが、月のかげにあらはれたるもおもしろくて、
月かげのさやかならねどいもかすむをさかの花やこへがてにみん
かくて其処にとまりて、よもすがらものかたらひて、朝とくあらやしきてふ処を出てかへりぬ。
此あたりの山に、風越のみかねといひけるありと、人のいへり。
風越のみねよりくだるしづのおが木曾の麻衣まくりでにして
かくなん聞えたるは、伊奈郡いゐだなる山を風越といふ。
しら山をまつり奉る。
かゝるを、もはら里人は、それといへど、いづらをいづらとわきがたがりけらし。
木曾のあさ衣といへば、いゐだののがかひへならん。
高遠の里なる青山大人、このとし六十になり給ふけるとて、から歌やまとうたをかきあつめ給ふこそ、たけきものゝふのこゝろも安らかに、せきのふづ河のなみしづかに、わたらひたてまつらしめたまへと、御うた/\の花の言の葉のなかに、柴になふ山賤らが、にげなきことばもて、ならひたらぬもはづかしけれど、去年の老松わかくりそしほの色をふくみて、ちよ万代の春の栄をよろこびて、そのこゝろをのべ侍るのみ。
松為殿といふ事を、
すえ遠き千代もかわらじ高砂のまつをむかしの友とちぎりて