晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

おののふるさと② 菅江真澄テキスト

十六日 あしたより雪ふり、さむさしのぎがたし。やごとにくらふ、ふきとりもちといふは、あつ湯にうち入たるもちに豆の粉ふりたるが、雪吹に人のふかれたる吹とり〔ふきたふれならん歟〕といふに似たるとて、比ことにたぐえたるといへど、まことは、福取餅ならんといふ老人ありき。

十七日 柳田(湯沢市柳田)の里にまかる。

門にさしたるなにくれの木に、鶯のうつりありくもめづらしければ、

 

   まだ花の咲ぬを恨み鶯のをのれとくるふこゝろとをしれ

 

十八日 湯沢にいきてんといひてやみぬ。

十九日 かくて其うまやに至る。

空うちくもりて雪いやふりぬ。

廿日 けふは、やいと(灸)しそむる日なりとて、昆布のうへに艾のせて、たヾひと火して、かしらのうへにおきたり。

廿五日 此五日ばかり風のこゝちにして日記もせざりき。

この日、新金谷芭(湯沢市)といふところにいきて高橋氏の家にとヾまりて、湯沢のうまやなる長谷寺に在給ふ、万明禅師にまみへたり。

甘六日 柳田に行とて路しばしくれば、袖の上などに雪虫といふものとび来るを、見る人、かゝるものゝいづればいまよりのちは雪のふりこじといへり。

廿七日、廿八日、廿九日、三十日になりぬ。

けふも又としとりすとて、やくとしいはふためしせり。

きさらぎ朔日 長閑に、よものやま/\の雪がすみたり。

 

   此まゝに花ともうつれうち霞み長閑に匂ふ雪の遠山

 

二日 はつ馬(初午)なりければ、げんどうの森(羽後町)の安具理子のみやとてありけるにまうづる人、野みちにむれり。

三日、四日雪ふりて、五日、いとよく晴たり。

五さか(尺)六さかの雪も日かげとき方は、かなたこなた、け(消)ちはてゝけるかたには霜降たり。

雪いさゝふるに、馬のつらといふものをきて、けらみのをきて、そりひきありく男等のあまた、をのが田畑のあるをこゝろあてに、雪のうへに、こやしとて、いつくさ(五穀)のやしなひのたわもてはこぶを遠かたに見れば、はるけき海つらにふねの行かと見やられ、たゞしろがねの山、しろがねのみちのおもしろきを、ふる里人と、みたらましかばと、ものおもひつゝ湯沢につきぬ。

六日 うらゝかにはれたり。

七日、けふは、かの岸にいたる(彼岸)日也といふ。

口よせとて梓巫のすむやには、柳の枝に糸かけて門にさしたるしるしに、人尋ね至りて、なきたまのうへをうたふを、聞人、なきいさち集ふ。

七日 薢(ところ)めせ/\と市なかをよばふをよび入て、比野老(ところ)をあか(閼伽)棚にそなへ、われもくらひぬ。

 

   あめつちの恵うるらしうちつどひ広き市路のところせきまで

 

八日 くもる。

九日、久保多(秋田市)の里に住ぬる真教、宗信といふ人とかたる。

けふ此人々、其里にてかならずかたらんといひて出行を、しばしとゞめて、

 

   わがねやる柳の糸の春風におもひみだるゝけさの別路

 

   たび衣たち別ても二月の空音な鳴そはるの鶯

 

十日 いはさき(岩崎)に行。

こなたかなた、ふみけちたる雪のあはひに、かれたる草のもえたるもなかばは青し。

又三四日ありて湯さは(沢)にかへりぬ。

十五日 さかぶち(釈迦仏)かくれ給ふたる日なれば、みてら/\の門もせにまうづる。

「花のもとにて春しなん」と、しりたる人ずしたり。

十六日のゆふべ、田の神にもちゐひ奉るとて、よろづのためしせり。

十七日 雪いたくふり来けり、晴て又雨しきりぬ。

この日柳田の里にあそびて、草彅(くさなぎ)氏が家にいねたり。

十九日 あめ風いやしたり。

廿日 ある郷に妻むかふるのわざしたり。

まづ、むこがねの毛利(守り)木とて、二尺あまりの勝軍木(ヌルテノキ)の、もと末を紙につゝみてしら台にのせ、又女の家よりも持来て、かく二もとづつ四もとを合て、こなたかなたへ、一もとづつとりかへてかへる。

此よめをおび出たるしりべたに、かの、もり木をあてて、すくひとて五尺あまりのあらたへの布を、よめの肩よりかけて、おふたよりとせり。こはみな、つねのわらはおふにもせり。

むこの家より莚一ひら出し、女のかたよりもむしろ一ひら持出て、むこのむしろを上に、よめのむしろをしたつかたにしくは例のことなるを、これをあらそひて、女のかたよりは女のむしろをうへにしてんと、まくり手にひこしろび、あらがひせり。

女のむしろうへにしかるゝを、いみじき男のはぢにいひなせり。

小刀などもて、むしろ二をさしつらぬけば、しきかふわざのならざりけるならはしなりとぞ。

此もり木はにしき木にて、又よめおふときのしら布をすくひとて、かならずもて渡るは狭布のほそ布ならんか。

みちのおくの国ちかければ、かかるためし、おもひあはしたり。

はた遠きむかしは、このくにもみちのおくといひたれば、さもありなんか。

ぬる手はわきて栬のいろふかければ、錦ともいはんか。

此もり木をひめおき、其人身まかれば煙として、しら骨あつむるときの箸となしけるためしなん。

甘二日 湯沢に行に、たかやなる雪やゝ消のこりて、塘(つつみ)に萌ばかい〔蕗子をいへり〕ひこ/\〔羊蹄草をいふなり〕つみありき、かこベ〔ちいさやかの竹かごを、かこべといふ。

又科野路にては桜の皮の煙草入れを、かこべといふ〕といへるうつはに、つみありく女むれたり。

市路になりては野老/\とうりありくを、市女笠をかたぶけてかひくらふ。

甘九日 柳田にくるに、杉むらなど、まだ春のいたらぬこゝちに雪のありければ、

 

   はるなかは杉の下みち来で見ればまだふみ残る去年のしら雪

 

やよひ(三月)朔日 よべより雨ふりて、遠方の山ぎはの雲おかし。

二日 霞の衣うら/\と長閑に、川辺まで立わたりたり。

三日 ひめなそび(雛遊び)のためしは、いづれの国にもひとし。

比郡をれうし給ふ御館にて、闘鶏ありけるを見にまかれる人々、又わらは(童)、鶏を手ごとにかゝへありく。

やのあるじ盞さしいだし、又けふの歌ありてなどせちに聞えたれば、

 

   みちとせの春にあふむの盃やむかへば桃のかげにゑひぬる

 

四日 雨ふりていとさむし。又雪の、ちか/\の日降こん、「かへるのめがくし」とて、いつもかゝるためしありけるとぞ。

 

 

 

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