晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

けふのせはのゝ⑥ 菅江真澄テキスト

十日大瀬河(石鳥谷町)といふに土橋かけたるを渡る。

この流は藤原朝臣盛方の、

 

「ほどもなくながれぞとまる逢瀬河かはるこゝろやゐせきなるらん」

 

とながめ給ひしは、これと、もはらいへり。

八幡(ヤハタ)(石鳥谷町)を過て宮部(花巻市)をくれば、花巻といふうまやあり。

むかしや牧のありけるやらんととふに、さはこたへず。

むかしは河岸に花多くありてちりうく頃、水にうづまかれてたゆたふよりいひし名とこたふ。

こゝに居る伊藤修といふくすし、けふは止りてとひたにいへれば、日たかう宿もとめたり。

夕暮ちかづくに旅人ふたりとぶらひ来るは、五瀬(伊勢)の国より国々めぐるとて、檍正唯、岩波良清とて歌よみ、はいかいする人也。

十一日けふも人々とともにまどゐして、あかず旅の思ひも忘れたり。

十二日この人たちことかたに出行を、名残猶やらんかたなう、いづこにてめぐり逢んと契てたゝばやといふ袖をひきて、此日斗はとておなじ宿に暮たり。

十三日けふはとて、ともにものしたるを、われ斗せめてはとて、山田のひたに止められて出たゝず。

正唯ふでをとりて、

 

   めぐり逢ふ月の例をかけておもひけふの別を夢いふな君

 

   とりが鳴東の奥はいとどしく別れまたくぞおもほゆるかも

 

といふ、ふたくさの歌作てわれに見せける返し。

 

   めぐりあふ月のためしはおもへどもけふの細布たち別うき

 

   別行ちまたもつらし鳥がなく東のおくをかなたこなたに

 

いはなみよしきよの句に、

 

   見とどけよ木々の錦のしたしみづ

 

となんありけるに、

 

   ひとりはらはん露のやまみち

 

とつけて、里のしりまで人々と友に送り出て帰るさに、あふげば早地峯(ハヤチネ)(東に見える)とて高きねに瀬織津比咩をまつると聞ば、ぬかづきぬ。

其近き辺に十握のみやといふありて、そこには日本武のみことの、みいくさひきゐ給ひしころの、みかりやのあとといひつたふあり。

この山より射はなち給ひしかぶらのひヾきに、みなをそりわなゝき、おかせるゑみしら、名残なうにげしぞきたりとか。

其箭のとどまりしみねを、的場山といふとかたるを聞つつ、修の家に至る。

くるれば、こよひの月見んと人々も集ひ来るに、とにあふぎて、

 

   明らけき月のこよひの初霜に手折わづらふ庭のしらぎく

 

十七日 この二三日は風おこりて、日記もせずふしくらすに、戌の貝ふくころ、とに声たかふよばふはいかにときけば、すは火のこと也。

とよめきさはぐに、はや、ちかとなりのやまでけぶり立わたり、なにくれの調度どももてはこぶにまじりて、われもこゝらのふみどもおひもち出て、あるじをたすけぬるほどに、枕とりしあたりもみな火かかりて、一ときのうちに、あまたのやは灰となりて夜なんあけはてぬ。

いみじきわざはひにあへりと、おしなべてうれへなきさはぎたり。

十八日 修はやのしりに、ゐくはところのよきやのあるにうつりて、われに、しばしはかゝるさはぎをな見捨そ、いましばしありてと、やの人こぞりていへば止りぬ。

遠きさかひよりこゝにすみつきたる老たる女、布前だれをし、頭はつゝみにかくしたるが来りてあるじに、薬たまへ、あが家のやまうどやいつかくよからん。

 

「糸はねの一筋もなでねべし、つづれやつこもささねべし。垣ねかいたま、猫けだ物がもぐりありく」

 

に、又おやこまきはやけたれば、此とし、いかヾくれんとうんじてさりぬ。

此物語きゝもしられねば、いかヾぞと居る人にとふに、このあたりでは、たヾ麻苧の糸をのみ糸はねといひ、引をなづるとはいへど、ことくには、えしり侍らじとかたはらよりこたふ。

ふるきこと葉にやあらんと、きゝつゝ戯れうた作る。

 

   糸なです綴奴もさゝずきてあれにあれたる垣ねかいたま

 

このかりやに日数へぬ。

村谷守中といへる人、情ふかう、うすき旅衣して夜寒の秋風いかヾしのぎてんと、綿あつ/\と入たる衣くれたりけるうれしさに、

 

「ものたうびしひとにをくる」

 

てふことを、もと末の上と下とにおいて六くさをつくる。

 

   もみち葉の色こそ増れきのふけふ時雨にけりな峰はいくたび

 

   のち山路見しは物かは語りあひおもなれてこし里はいくさと

 

   たち別れ行空もうしあすよりは独たどらんしらぬ山路に

 

   うらがるゝあさぢがや原ふみしだき野辺にやからん草の枕を

   

   ひたすらにかけてを通へ玉づさはをたへの橋の絶ず久しく

 

   しももやゝおくの細路ふみ分てけなんおもひは別とぞしる

 

廿七日 くすしをさむのやを出たつに、あるじ。

 

   しら雲の立へだたれる遠方をよそにのみ見て恋や渡らん

 

と、よみてくれたりける返し。

 

   ふたゝびと契おきても白雲のよそに隔る身をいかヾせん

 

行く/\紅葉のおかしかりなんなどいひて、守中。

 

   草枕うき旅かけて故郷に枪の衣きつゝ行らん

 

かくなんありける返し。

 

   ふる里のつとに見なまし唐錦枪色そふ人の言の葉

 

月見しこと、なわすれ給ひそとて、文英。

 

   草枕むすぶ旅ねの夢にても見し夜の月の影なわすれそ

 

と聞えし返し。

 

   友に見し月の円居のわすれじなしのびてもがな空にしのばん

 

ふたゝびとて、文英。

 

   別ても心へだつなながめやる空ははるかのさかひなれども

 

とぞありけるに、返し。

 

   わかれてはことこそたゆれ大空に通ふ心はへだてざりけり

 

又おなじ人々の句に、

 

   これよりや夢のうきはし時雨あり

 

   日うつりやかざしの笠に女蘿(つた)もみぢ

 

   人遠し撮折(つみおり)はぎにあきのかぜ 守中

 

   笠めせば君と秋との余波かな 至岳

 

   幾久(きく)に名をこめてはおしきわかれ哉 素綾

 

この人々送り出て、みちの左に鳥屋崎の城といふ、これなん琵琶の柵といひて、安陪(倍)頼時のつきそめ給ひしとかたり、又道のゆんでめてに、としふりたる槻と椋の生立るを筆塚とて、頼朝のむかはせ給ひしころほひより、生ひ立りし木にてありつなどいふを、

 

   治れる御世のしるしは筆塚にかきつもりにし年ぞしられぬ

 

送り来つる人々は、豊沢川(花巻市)の橋をふみ過ぎて、こゝに扇堀とて、人にふたゝび逢んあふぎてふ名のよければ、このきしべよりみな帰りけり。

十二町目(花巻市)といふ村中に、対面ぜきといへる細きながれあるより、稗貫、和賀と郡はへだつなど、処の人のをしへたり。

成田村(北上市)を過て岩田堂、二子(北上市)、この二子に、あやしのあみだぶちを八幡といはひたり。

飛馳(トバセ)森といふなるは、天正十八年の春のころほろびたる、和賀主馬のかみと聞えたりし城址なり。

此主馬の君の遠つおやは、多田薩摩守頼春の末也。

頼春の君は、伊藤入道祐親の女満幸の前のうめるころ、祐親入道都より帰来て此ちごを見て、こは、たがぞ男やあらんととへるに、まんかうの前のまゝ母ぎみ、見たまへ、此子は蛭が小島のにゐ島もりがうませたる、おほん孫にてさふらふなり。

瓜なんふたつにはやしたらんがごとに能似たりと、にくさげに足もてかいなで、こなたにおもむけてけり。

すけちか、なに頼朝の子なるか。

平氏への聞え、又つみんと(罪人)のたねといひ、たすくべうもあらじと、はらぐろにのゝしり、水深き淵に捨べし、とく/\といへれば、すべなううしなひ奉りしとこたへて、斎藤五斎藤六と、曾我太郎祐信等とこゝろをあはして、このをさなき君を、人しらずたすけまゐらせはぐくみたてて、頼朝、あめがしたをまつりごち給ふのときをまち得て、君、信濃の国善光寺にまうで給ふをりしも、みちすがら、このわか君のうへを申いづれば、頼朝公、になうめでよろこび給ひて、梶原をめして、いづらの国にか二三万石のところやあらん、とらせよとのたまふに、みちのくならで、かきたる城もあらざるよしをけいすれば、それにとのたまひしかば、住給ひしとなんいひ伝ふ。

斎藤五斎藤六は、のちに小原八重樫と名のりて、此末今も南陪(部)にいと多しといふ。

其城の址に、夏と秋とふたゝびなる栗の樹も侍ると村長が話るに、日影かたぶき、早地峯をむかふに風いと寒く、見る/\、

 

   冬ちかみあらしの風もはやちねの山のあなたや時雨そめけん

 

黒沢尻(北上市)といふうまやにつきて、昆といふ何がしがやに泊る。

 

 

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