晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

いわてのやま②  菅江真澄テキスト

十六日 あるじ常雄、しばらくのわかれなるべし、けふばかりはと、せちにとゞめかたらふゆふつかた、資福、盛芳、久武のぬしとぶらひ来て、余波やるかたなう、ふたゝびなどありて夜ひとよ語ぬ。

 

十七日 あしたの空かきくもりて、やがてふりくる雨によそふとて、那須すけとみ、まづとなふ。

 

   旅衣したふたもとをいましばしたちとまれとや夕立のそら

 

とありし歌の返し。

 

   たびごろもしとゞにぬれてタ立のふりわかれゆく袖ぞものうき

 

あるじ、つねお。

 

   わけわびん山路を遠み見るがうちにこゝろにかゝるゆふだちの雲

 

とぞありける返し。

 

   あすも又こゝろははれずわけわびんよしいふだちの雲たゝずとも

 

たかはしひさたけ。

 

   いかゞせん千里をすぐるゆふだちのふり別れてはぬるゝたもとを

 

返し。

 

   白雨は波のちさとをはるゝともこゝろはくもるうき旅のそら

 

高梨もりか。

 

   いましばしわかるゝ袖に夕だちの雨もなごりの露むすぶらし

 

この返し。

 

   ゆふだちのよそにはれても行袖につゆの情のかゝるうれしさ

 

もりか、ふたたび。

 

   たび衣明日のなごりをおもふとてはれにし雨に袖ぞぬれぬる

 

とありし返し。

 

   あまはれにかはくたもとをかたしきて明日の別にぬれてゆかまし

 

雨又ふり来て日はくれたり。
やをら更行ころ、かみ河のへたならん、川長をひたよびによぶ声の、雨の音にまぎれてほの聞えたり。

 

   舟よばふこゑもをやまずふる雨やこやわたしもりとまにぬるらし

 

雨のをやみし雲間ゆ、月のさしのぼりて、さうじしら/″\と見えたるとき、けしきばかりおしあけて、あるじ。

 

   海山をへだつるとても空にすむ月にこゝろをかけて偲のばん

 

とながめてける返し。

 

   うみやまをへだてしとても友に見し月のなさけをえやはわすれん

 

久武。

 

   よな/\はおもひぞいでんまどゐして月にかたらふかゝる楽しさ

 

返し。

 

   うちむかふたびにしのびてみちのくのそらはいづこと月にたどらん

 

とりの、かきろと鳴ば、あるじ。

 

   けふも又あかずかたりて呉竹のひとよをあかせわかの友どち

 

といへれば、人々にかはりてこの返しをす。

 

   おもふこと語りてけふもくれ竹の夜半のふすまもしらぬたのしさ

 

枕とらんとすれば、とは、しらみたり。

 

十八日 つとめて雨いたくふれり。
人々、よべのこうじにや、あさいして、はれたるころ起出て手あらふ。
けふ、このおほむろをいでたゝんとしたるに、あるじの云、

 

   皈り来て尚もかたらへほど遠き蝦夷が千島の秋のあはれを

 

とありける歌の返し。

 

   いつの日かおなじまどゐになにくれとゑぞがちしまのことかたらなむ

 

又、つね雄。

 

   おもふぞよなみぢも八重のしほ風にふかれてわけんきみが行衛を

 

返し。

 

   おもひやれ八重の潮風身にしみて友なし小舟さして行衛を

 

かくて、よそひして小笠とれば、資福

 

   うき旅の友とし契れこよひよりかりねの床にやどる月影

 

返し。

 

   こよひより人の面影しのばなんかりねの屋戸の月にむかひて

 

久武。

 

   おもひやれ名残つきせぬことの葉につゝめど余る袖のなみだを

 

返し。

 

   わすれじな人のこと葉の露なみだわかる、袖にかゝるなさけを

 

やどのあげまき、あるじをはじめ、人々に、ふたたびといへば、長き旅路をことなうなど、みな、とにわかれて、水沢のうまやにつく。
こゝにまつる塩竈のみやしろにまうで、ぬさとりて、この神ぬし、さゝ木なにがしがもとに、こよひはとまる。
夕ぐれかけて雨又零来ぬ。

 

十九日 あしたより雨猶ふりて、空さだめなきけしきなれば、あるじ、ひとひ、ふつかはありてと、ねもごろに聞えてくれぬ。

 

二十日 あるじ、あさきよめしけるとともに広前にいたれば、たくみらあまた来て、けふ、みあらかをふきか
ふるとて、そぎたもてわたり、千木おきかふるなど聞えたり。
こは、こんふん月の十日なん、血鹿の浦のみやどころに、おもきかんわざのあれば、こゝにいはひまつれるみやしろにも、おなじ日祭してすゞしめ奉る、そのもふけとなん。

 

   かしこまるたびにめぐみのますかゞみうつせばちかのしほがまの神

 

さゝ木をこゝにわかれて、みさかおりはつれば、けふたつ市女のたよりにふみもて来るをひらきみれば、人々のことづてもいひて久武の歌あり。

 

   いくたびかふり返り見るたびごろもたち別にし人の面影

 

この返し。

 

   たちわかれひとりゆく/\たび衣なれ来し人の俤にたつ

 

たよりもあらばと、かいて、相しりたるがもとにのこす。
雨のいたくふりくれば、大林寺に入て曇華上人をとぶらふ。
上人、老たる身は、ふたゝびのたいめ、いかゞあらんなど、おなじくにうどのよしみありて、ひたぶるにとゞめたまへば、こゝに語らひて更たり。

 

廿一日 いさゝかのあまはれにとて出くれば、又ふり来けり。
畑中なにがしのしるよしは、鎮守府八幡のみやどころに近く、そこにかりの栖居しければ、とひよりて日はやゝくれたり。

 

廿二日 雨のやみてけれど旦の空うちくもりたれば、いかゞとためらふほどに尚ふりしきりて、けふは岩谷(ヤ)堂(江刺市)といふ里まで渡らんとおもへど、水のいとふかくして北上川の舟いださじなど人のいへば、すべなう、いかゞして江刺郡へいかんと、ひとり空のみあふがれてものおもふをりしも、あるじ藤白華、別のくしとて、

 

   靺鞨城頭瀚海流  
   路通魏絳論辺秋  
   波間織?泣珠客  
   鵬際宿雲燃犀舟
   雪帳風旗逢夜猟  
   胡琴?笛足春遊  
   帰来応見名山誌  
   如画烟霞是満州

 

となん、かい聞えてけるにむくふ。

 

   笛の声ことのしらべもあら磯の浪にまぎれんゑぞの遠州(シマ)

 

 

 

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