世の中には、なくてもいいのだけれど、長年の慣習や、しがらみで残っているものがある。
勤め人の生活をしていると、そんなものがいくつかあった。
私は、1970年代から2010年代の半ばくらいまで、そんな生活をしていた。
そのひとつが、忘年会だろう。
忘年会だけではなく、そんな宴会は年に何回かある。
私は、酒も嫌いなわけではないので、それほど苦ではなかった。
でも、お酌をしてまわるというのが苦手だった。
どうも、タイミングがとれないのである。
だから、大人数になるほど、居心地が悪かった。
そして、もうひとつは社内旅行のようなものである。
もう、そんなものをやっている所も少ないだろう。
高い宿泊料を払って、宴会をやりに遠くに出掛けるくらいならば、近い所でふだん経験できないような贅沢な宴会をやればいいのにと、いつも思っていた。
でも、このコロナ禍のおかげで、この2年間はどこでもこんなことをやっていないだろう。
こういうものを無くするのなら、いい機会である。
コロナ禍がなくなったからといって、また再開することはない。
ほんとに、必要なものなのかどうか、である。
かつては必要だったものかもしれないが、今は事情が変わってしまっている。
ほんとに必要なものは、他にあるんじゃないだろうか。
正月明けに、妻が高校時代以来の友人に会いに、東京に出かけた。
劇団四季のミュージカルを観るのだという。
ロボットが登場するミュージカルらしい。
友人の息子さん夫婦が、劇団のスタッフとキャストなのだ、という。
出かけて大丈夫だろうかと、心配しながら出かけて行った。
案の定、その翌週から感染者爆発で、ミュージカルどころではない。
劇団四季と聞いて、思い出した。
私も、劇団四季のミュージカルを一回だけ観たことがある。
「さようならアルゼンチーナ」という作品だった。
アルゼンチン大統領ファン・ペロンの夫人だったエバ・ペロンの生涯を描いていた。
映画化もされ、映画「エビータ」の主演はマドンナで、とても評判になった気がする。
それを、職場の忘年会のイベントとして、みんなで観たのである。
劇団四季というとミュージカル劇団だというイメージだけど、私が生まれた頃に、浅利慶太や日下武で学生演劇集団としてスタートした当初は、演劇の面白さを追求した劇団だったらしい。
それが、1970年代に越路吹雪のミュージカル「アプローズ」を上演したあたりから、劇団員が生活できる経営を志向するようになり、ミュージカルにシフトしていった。
その頃の職場は、「観劇」+「宴会」というのが、忘年会のパターンだった。
観劇は、年によっていろいろで、歌舞伎を見たこともある。
たしか、尾上菊之助だったが、歌舞伎ってけっこうわかりやすいものだな、と思った記憶がある。
まあ、考えたら江戸時代の大衆演劇である。
なんといっても、忘れられないのは、マイケル・ジャクソンの東京ドーム公演である。
観劇の企画で悩んでいる幹事に、私は半分冗談で言った。
「年末にマイケル・ジャクソンが来日するけど、今スキャンダルをかかえているから、これが最後の来日かもしれない。」
マイケル・ジャクソンは、その頃既に誰でも知ってるスーパースターだった。
ダメもとで、連絡をとってみたら冗談がほんとになってしまった。
その時は、東京ドーム近くのレストランで食事してから、公演に行った。
上司は、大音響に耐えられず、途中で帰った。
たいていの職場は、よくある宴会だけというものだが、ちょっと変わった職場もあったのだ。
その前の職場は、「寄席」+「宴会」だった。
寄席と言っても、演芸ホールで、マジックや漫才や落語だったな。
考えてみると、1980年代から1990年代である。
こんな機会でもなければ、出会えないようなものを観れたのはたしかである。
古き良き時代、ということだろうか。