晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

菅江真澄

かすむこまかた③  菅江真澄テキスト

白粉(シロイモ)の、さはにあらねば、近き世には山より白土(シラツチ)を掘り来(キ)て、三四日(ミカヨカ)も前日(サキツヒ)より、花白物(オシロイ)よ/\と肆(イチ)にうりもてありくを買ひ、水に解(トカシ)たくはひおきて是を塗(ヌ)る也。 む…

かすむこまかた②  菅江真澄テキスト

十二日 つとめて、小雪ふりていと寒し。 午うち過るころより若男等(ワカヲラ)あまた、肩(カタ)と腰とに「けんだい」とて、稲藁(ワラ)もて編(アメ)る蓑衣(ミノ)の如なるものを着(キ)て藁笠(ワラガサ)をかヾふり、さゝやかなる鳴子いくつも胸(ム…

かすむこまかた①  菅江真澄テキスト

夕づゝのかゆきかくゆきゆきくさまくら旅にしあればそことさだめず 雲ばなれ遠き国方(クニベ)にさそらへありき、ことしもくれて、みちのくの胆沢(イサワ)ノ郡駒形(コマガタ)ノ荘(サウ)ころもが関のこなた、徳岡(トクオカ)(胆沢郡胆沢村)という里…

かすむこまかた  菅江真澄テキスト

「かすむこまかた」は、天明6年(1786年)正月から2月にかけての日記である。 菅江真澄は、陸奥国仙台領胆沢郡前沢駒形で正月を迎えている。 天明3年春に、故郷の三河を離れて旅に出た菅江真澄にとっては、旅の途上の三回目の正月である。 天明4年は、信濃国東…

けふのせはのゝ⑦ 菅江真澄テキスト

廿八日 あるじにいざなはれて、阿部(安倍)のふる館のあと見にとて行ぬ。 加志といふ処に、黒沢尻四郎政任のありしいにしへを偲ぶ。 北上河をへだてて、国見山のいとよく見やられたり。 国見てふ名はところ/″\に聞えたり。 神武の帝八十梟を国見丘に撃給ふ…

けふのせはのゝ⑥ 菅江真澄テキスト

十日大瀬河(石鳥谷町)といふに土橋かけたるを渡る。 この流は藤原朝臣盛方の、 「ほどもなくながれぞとまる逢瀬河かはるこゝろやゐせきなるらん」 とながめ給ひしは、これと、もはらいへり。 八幡(ヤハタ)(石鳥谷町)を過て宮部(花巻市)をくれば、花巻とい…

けふのせはのゝ⑤ 菅江真澄テキスト

八日つとめて寺林(岩手郡玉山村)、河口(岩手町)をへて、巻堀(玉山村)といふ村に斎ふ金勢大明神といふかん籬あり。 こは名にたかふ、石の雄元の形あまた祠にをさめたるはいかにととふに、近きころ盗人とりうせたるを、もとめいだし奉りてのちは、此里のこと処…

けふのせはのゝ④ 菅江真澄テキスト

五日 とのしらみゆけば、女戸おし明て、こは水霜〔露をしかいふなり〕しろ霜まじりふりたりとて、真柴折くべ物にるにあたりて、出たつよそひす。 けふは末の松山見にいかんとおもひて、とく/\と出ぬ。 梨木坂のこなたよりは二戸郡といへり。 保登(戸)沢…

けふのせはのゝ③ 菅江真澄テキスト

二日 朝たつ。 をりしも恵音ほつし(法師)、とよりさしのぞき、又いつかなどいへるに、 昨日来てけふの細布たちさらばむねのひがたき別ならまし とて、やを出て、小豆沢村(鹿角郡八幡平村)になれば、いかめしき大日如来の堂あり。 そのゆへは、そのかみ田…

けふのせはのゝ② 菅江真澄テキスト

鶴田村(花輪町)の辺になみだ河といふめるは、あはぬ夜毎/\を根み、ながるゝなみだの顔をあらひたるより川の名におへりとも、又いつまで世にすみありつとも、あがおもふ女を見ることこそかたからめとや思ひけん、深き林に入て此男くびれ死けり。 又、その…

けふのせはのゝ① 菅江真澄テキスト

天明五年(一七五八)の秋、つがろじをへて南陪の鹿角郡になりて錦木のむかしを尋ね、岩手郡、和賀郡を過て仙台路にかゝり、江刺郡に片岡邑に宿りたるまでをかいのせたり。 其言葉みじかういひもたらされば、《けふのせはのゝ》と名づく。 (天明五年―一七八…

紙の本とデジタルの本②

私にとって何度目かの「電子書籍ブーム」が訪れている。 今までため込んでいた歴史書や古典文学などのテキストを、パソコンやタブレットで読めるように、電子書籍に変換している。 きっかけは、「吾妻鏡」である。 このブログに、「令制国」のことを書いてい…

けふのせはのゝ 菅江真澄テキスト

津軽から矢立峠を越えて、秋田藩に入り大館の街を通り、山中の沢尻という宿で、「そとがはまかぜ」の日記は終わっている。 大館は、私の郷里であるが、天明5年(1785年)というから250年も前に、菅江真澄が通り過ぎたと思うと、感慨深いものがある。 大館は、…

そとがはまかぜ⑥ 菅江真澄テキスト

廿二日 あさとく、せきて(関手形)わたして越たり。 このあたりの郡はいかにととへど、しらじ、たヾ白河庄とのみいらふ。 みちの左右に白糸滝、登滝、無音滝、日暮し滝、二見滝、折橋の番処を右の沢へおりて温泉あり、鬼湯なり、大人の入湯の故事。 銀山あ…

紙の本とデジタルの本①

どうしても読みたい本があったので、図書館で借りることにした。 自宅の近所に柏市の図書館の分館はあるが、分館の蔵書にはないようなので、本館まで出かけることにする。 本館までは、歩けば1時間ほどなので、運動にはちょうどいいのだが、自転車で出かける…

そとがはまかぜ④ 菅江真澄テキスト

十六日 あるじ行徳の云、みちのこゝろは露も思ひはなれずよなど、まめやがに聞えて、 立帰る雲措は遠く隔ともこゝろを渡せ天のうきはし 寄るなみのたち帰るも絶ずたゞ三河の水の音信てまし となんありける、ふたくさの返し。 雲井路をたちへだつとも忘れずよ…

菅江真澄の文章

私の手元にある「菅江真澄全集」は、1981年に「未来社」が刊行したもので、第三刷である。 しかし、第一刷は1971年に出ている。 奥付を見ると、第一巻の定価は6500円であり、全巻十四巻を揃えるといい金額になった。 菅江真澄は、それほど知られた人物ではな…

そとがはまかぜ③ 菅江真澄テキスト

十二日 川ひとつわたりて百田邑(弘前市)を過て、名によぶ津軽野に出たり。 いまはつがのといひ、村あり、つが野邑といへり。 「みちのくのつがろの野辺の萩盛こやにしき木をたつるなるらん」 大久保(以下弘前市)、撫牛、堅田、和徳、広崎(弘前)の里に…

そとがはまかぜ② 菅江真澄テキスト

八日 又牛島に至り川におりたち、こなたかなたとあさせもとむれど、水とふかければ身もうき、足もながれ、すべなければ岸辺にあがり休らふを旅人二人来て、われ、さいだちて瀬ふみしてん、つゞきたまヘ。 たか石をふんであまち侍るな、流に隋ひてわたりてよ…

そとがはまかぜ① 菅江真澄テキスト

(序文) 天明五年乙巳秋八月三日、みちのおくつがろ路にいたりて、ふたゝび、いではの国齶田のさかひをわけて、十二所の関を越て、沢尻といふ邑に来て、おなじ葉月廿五日までかいて、名を《そとが浜風》とせり。 おなじき廿六日より又みちのおくの南倍(部)…

国名について調べてみた16 陸奥国と征夷大将軍

これは、私の日本の歴史の勉強のための覚書です。調べたこと、考えたことを書きとめてます。 令制国というものに興味があって、気が向けば調べたりしています。 今年のNHK大河ドラマは、「鎌倉殿の13人」であり主人公は「源頼朝」かなと思っていた。 しかし…

そとがはまかぜ 菅江真澄テキスト

天明5年(1785年)、菅江真澄は、8月3日出羽の山本郡八森から津軽藩に入る。 この年の4月まで、出羽国雄勝郡に約5ヶ月滞在していて、その日記が「おののふるさと」である。 滞在中に親しくなった人々に別れを告げて、旅を続ける。 後の著作の内容により、横手…

おののふるさと⑥ 菅江真澄テキスト

十三日 ある翁にいざなはれて河瀬のあびき(網引)見にいきてんとて、おもの(雄物)河のへたに草おりしきて、翁、こしにつけてける、ひさごのさゝヘとりいだして盞とりぬ。 くき、せぐろ〔くきも、せぐろもいをの名也〕とるとて、小石もて川瀬にとりつかね…

おののふるさと⑤ 菅江真澄テキスト

五日 かきねゆひめぐらしたるうちに、何の花ならん、雪のふりたるやうにちりたるをとへば、あむず(杏)の花なりけるよしをこたふに、 家づとにおられしとあむすいかいのあなたの花はちり過にけり 六日 やけ野に生ひたる、さゝやかのくさびら(茸)を人のく…

おののふるさと④ 菅江真澄テキスト

廿四日 湯沢にかへる。 比夜、雨風のつれ/″\に人のかたるを聞ば、むかしおるまたぎの句に、 「蕨の折にあびやれ、ばゞもさ」 となんありけるに、らくが、つけたりけるはおかし。 「さうまにしん、くゞつまいれてにてくも(食申)そ」 蕨を折にまからんに、…

おののふるさと③ 菅江真澄テキスト

六日 空うらゝかにいとよし。 岩碕(崎)といふ村に行とて、杉沢(湯沢市)とかやいふ村中に、垣ねおしめぐらして黄なる花咲たり。 この花は、むつきのはじめ、いまだ雪のかゝりたる垣ねに匂ふ万作といふ花〔木まんさく、草まんさくとてあり。草万作は福寿草…

おののふるさと② 菅江真澄テキスト

十六日 あしたより雪ふり、さむさしのぎがたし。やごとにくらふ、ふきとりもちといふは、あつ湯にうち入たるもちに豆の粉ふりたるが、雪吹に人のふかれたる吹とり〔ふきたふれならん歟〕といふに似たるとて、比ことにたぐえたるといへど、まことは、福取餅な…

おののふるさと① 菅江真澄テキスト

天明五年乙巳正月朔より四月のすゑまで、出羽の国おかちの郡のあらまし、小野小町のふる跡をたづねしを記したり。 胆氐波(出羽)のくに於雄勝の郡、飽田(秋田)のあがたにて年を越り。 天明五年正月朔、はつ日きらびやかにさしのぼる光に、雪の山々にほや…

おののふるさと 菅江真澄テキスト

「おののふるさと」は、天明5年(1785年)の正月を、滞在していた出羽雄勝郡柳田(湯沢市)で迎え、春になると、付近の小野小町の古跡や院内銀山などを訪れた4月末期までの日記である。 小型本で、全35丁で、これもまた、「あきたのかりね」と同様に、図絵がない…

あきたのかりね⑨ 菅江真澄テキスト

霜降月のなかば、湯沢(湯沢市)〔いにしへ出湯ありしといへり。 いまも山はたけの畔より湯いづるところあり。かくちといふ。 たばこいづる里也〕のうまやに行ば、雪は五六尺にあまりて、かた岨、谷などをのぞむがごとくおぼへたり。 かく、しみ氷りたる雪の…