山歩きをしていると、山小屋に泊まることになる。
山小屋といっても、ピンからキリまでいろいろである。
私の経験は、東日本の山に限られる。
北アルプスの山小屋は、場所によっては、個室もあるし、生ビールも飲める。
すばらしい風景を前にして、生ビールで乾杯ができるのである。
こんな贅沢はない。
私も、生ビールで乾杯は、一回しか経験していない。
そういう山小屋では、食事も出してもらえる。
登山客の多い山域の山小屋なら、布団もあるし、まあ山の民宿である。
それ以外の山では、ほとんどが避難小屋と言われるものである。
管理人もいないし、雨風を防げて助かる、という程度のものである。
夕食を自分で作って食べたら、寝袋に入って夜が明けるのを待つだけである。
ときどき、寝酒にアルコールを飲んで、また眠る努力をする。
私は、一人で山へ行くことが多かった。
ときには、自分以外の宿泊者がいないこともある。
真っ暗な山小屋で、ひとり夜を明かすのは心ぼそいものである。
秋田県中央部にある森吉山に、登ったことがある。
午後に途中の無人小屋に着いたので、登頂は翌日にすることにして泊まることにした。
その無人小屋は、営林署の山仕事用に作った宿舎を、登山者に開放しているらしかった。
かなり立派な建物で、2階建てだったが、管理人はいなかった。
当日私以外の宿泊者は無く、私は2階の部屋に寝袋を広げた。
1階の台所には、自然の流水を引っ張ってきた蛇口があって、水は流れっぱなしで止められなかった。
流水に混ざった空気が蛇口を出るときに、とんでもない大きな音が響き渡った。
その音が響き渡るのが、不定期だった。
寝付こうとすると、その騒音で起こされた。
水の音であるのはわかっているが、真っ暗な闇の中で突然静寂を破る音が響くと、何か違うものがやって来たような気がして、こわかった。
そうやって、一晩過ごした記憶がある。
八幡平から岩手山を縦走して、溶岩が流れ出て固まった焼走りを下山したことがある。
下山したところに、キャンプ場があって、そこにテントを張って泊まることにした。
キャンプ場は、立派な管理棟があって、その前に広場があった。
着いたときには、10数人のグループが広場で何か活動していた。
キャンプサイトは、広場をはさんで管理棟の反対側の林の中にあった。
私は、広場に近いところのキャンプサイトに、テントを張った。
テントといっても、非常用の簡単なものである。
最近のアウトドア用のようなしゃれたものではない。
ほんとに、横になるだけのものだった。
夕方になったら、広場にいたグループが帰って、いなくなってしまった。
テントを張ってるのは、私だけだった。
そのうちに、まわりは真っ暗になった。
広場に近いとは言っても、林の中である。
テントの布の外は、暗闇である。
林の中なので、いろんなわけのわからない音が聞こえる。
寝付いたと思ったら、目が覚め、それを繰り返していた。
このゴールデンウィークは、山の事故が多く伝えられた。
雪の登山道から滑落というケースが、多かった気がする。
この時期の山は、天気によっては、冬山なので準備が不充分だったのかな。
私も、ゴールデンウィークの那須山で、吹雪にあったことがある。
山もそうだし、川も海もこわいと思う。
自然には、人間の想像を越えたものがある。
何がこわいのかを、知らないといけない。
それが、準備だと思う。