晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

想像力が生み出した鳥瞰図というもの その3

柏市の図書館本館に行く機会があったので、「鳥瞰図」を見てきた。

何ヶ月前かに、このブログに、「千葉県市街鳥瞰図」というのが蔵書としてあることを書いた。

この地図セットは、冊子ではなく、大小様々な大きさの地図を復刻したもので、折り畳んでA4ほどの紙箱に納められている。

この原本となった鳥瞰図は、昭和の初期に千葉県内各地の市町村が発行したものを、1989年に東京の出版社が復刻発行したものである。

県内26市町村の鳥瞰図であるが、まだ町村合併がそれほど進んでいな頃なので、実際にはその何倍もの数の市町村があったのだろうと思う。

前回図書館に来たときに、そのうちの「柏町」と「松戸町」の分を、コピーした。

 

図書館の蔵書は、著作権の規定によって、その書籍の半分までしかコピーすることができない。

一枚ものの地図や絵画などは、その図郭内を一つの著作物の見なすので、その図郭の半分までのコピーが可能である。

今回残りの半分をコピーしたので、合わせると全体を複写したことになる。

この「千葉県市街図鳥瞰図」は、松井天山という鳥瞰図絵師の方が、昭和3年ごろから12年ごろまでに作成したものである。

実際には、30町村分鳥瞰図が残されているようであるが、復刻されたのは26町村分である。

柏町のものは、「千葉縣柏町鳥瞰」と題されて、原本はA2ほどの大きさである。

通常のコピー機では、最大の用紙サイズがA3なので、A3が2枚ということになる。

松戸町のものは、「千葉縣松戸町及明村鳥瞰」となっていて、さらに大きなA1サイズであり、A3のコピー用紙四枚分である。

 

図書館では、ちょうど「柏の学校」という写真展をやっていた。

学制150周年記念歴史写真展となっていて、明治、大正、昭和の学校の写真が廊下に展示してあった。

その中心に、「千葉縣柏町鳥瞰」のコピーも掲示されていた。

そして、この鳥瞰図の中に、昭和初期の「柏尋常高等小学校」の校舎が、そのままに描かれています、との説明文があった。

図書館のウェブサイトを見ると、本館だけではなく、増尾、田中、布施、沼南の分館でも、それぞれの地区の学校についての写真展をやっていた。

柏町鳥瞰図左下部分  柏尋常高等小学校が左下にある
常磐線の線路を蒸気機関車が煙を吐いて走っている

松井天山という鳥瞰図絵師については、詳細なことは知られてないようだが、仙台や東京に居住していて、千葉県内の船橋や松戸にも住んだことがあるらしい。

そういう縁で、千葉県内の市町村の鳥瞰図を数多く手掛けたのだろう。

検索したところ、県外では、福島県白河町、須賀川町、栃木県今市町、日光中禅寺の鳥瞰図が見つかった。

これらの鳥瞰図には、鉄道、駅、道路、官公署、学校、病院、工場、商店などが、細かく表示され、「商工案内図」として製作されたのだろう。

鳥瞰図は、地図と絵画をあわせたような「絵地図」でもあるが、決められた四角の用紙にその情報を詰め込むために、かなり無理なデフォルメがされている。

柏町鳥瞰図右下部分 
右下に「縣立東葛飾中学校」

「縣立東葛飾中学校」が、柏駅のかなり近くに描かれているが、実際には線路から200m以上は離れていて、方向ももっと右方向になるはずである。

一枚の図面におさめるために、距離や方向をかなり調整している。

それでも、「案内図」としては、とても有効なものだったのではないだろうか。

この時代、日本中で多くの鳥瞰図が製作されていたようだ。

調べてみたら、大正から昭和にかけて活躍した「吉田初三郎」という鳥瞰図絵師がいたことがわかった。

彼は、生涯に3000点もの鳥瞰図を作成した代表的な鳥瞰図絵師である。

彼の作品は、数多く残されていて、「国際日本文化研究センター」のウェブサイトのデータベースに収録されているので、閲覧することができる。

iiif.nichibun.ac.

このデータベースは、作品数も多く、日本全国ほとんどの地方、都道府県が網羅されているので、とても見応えがある。

彼の鳥瞰図は、色ずりで描写も絵画的であり、構図も大胆であり、たぶん観光案内としての目的に特化したものかもしれない。

東京周辺のものも数多くある。

その中に、「東京から日帰り」というタイトルの「名勝案内図絵」というものがあった。

昭和3年に、「旅行界社」という出版社が発行したもので、定価15銭となっている。

これについては、説明が不要である。

これを見たら、あっちに行きたい、こっちに行きたい、となるだろう。

私の住む柏のあたりを拡大してみた。

手賀沼印旛沼もあって、筑波山霞ヶ浦もある。

 

これに比べて、松井天山さんの鳥瞰図は、とてもローカルである。

地方の小さな街の様子が、白黒2色で繊細に描かれている。

今なら、スマホの地図アプリで済むことだろう。

さまざまな地図や航空写真を切り替えたり、さまざまな施設の名称なども表示したりしなかったりできる。

それがなかった時代に、たった一枚の図絵で、さまざまな情報を提供しようとしたのだ。

それが残されているおかげで、私たちは、ただそれを見て楽しむことができる。

 

 

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