「地表面を上空から斜めに見下ろしたようすを図に描いたもの。俯瞰図(ふかんず)ともいう。起伏のある土地に用いることが多い。立体感や遠近感がよく表され、土地の状況を把握しやすい。しかし、地図のように、距離、方向や面積を正しく読み取ることはむずかしい。また、遠方ほど省略されたり、山や丘の向こう側が表現されないという欠点もある。建物や樹木なども実物に近い形に絵画的に描かれることが多く、観光案内図などに用いられる[五條英司]」
(百科事典マイペディア)
人間は、鳥のように飛ぶことはできないので、自分の住む街を上空から見下ろすことはできない。
地上で描いたスケッチをもとに、上空から見た風景を想像して、再構築するのだろう。
人間の視点からは、絶対に見ることができない光景を人間は描いてきた。
「鳥瞰図」ということばから、私が思い出したのは、日本史の教科書に載っていた「洛中洛外屏風」というものである。
京都の街並みを、空から見下ろした光景が描かれていたような気がする。
それも鳥瞰図といえるだろう。
屏風の全体に広がる金色のものは、雲でありその隙間から街並みが見える。
このような屏風は、戦国時代から江戸時代に多く作られたらしい。
内容的には、季節を表す風景や行事を描いたものが多いが、江戸時代に作られたものには「朝鮮通信使」を描いたものもあるらしい。
ウキペディアには、現存する「洛中洛外屏風」の一覧があるが、それは168もの屏風のリストである。
他には、「大坂夏の陣図屏風」というものある。
これもやはり、雲の合間から戦場を見下ろして描いている。
いろんな屏風を見ていて、もっと他にもあると気がついた。
「源氏物語絵巻」のようなものである。
これも、教科書でみたことがある。
建物の中にいる人物が、斜め上から描かれている。
屏風よりももっと視点が近いので、人物の表情や服装が細やかに描かれている。
天井も壁も省略されているので、部屋の中にいるはずの人物を間近に感じられる。
こういうものは、「絵巻物」というらしいが、屏風とは比べものにならないくらいに、多くのものが作られて、残っているだろう。
「絵巻物」には、物語絵、説話絵、戦記絵、社寺縁起絵、高僧伝絵、歌仙絵と、さまざまなものがあるらしい。
物語絵も、源氏物語の他に、枕草子、伊勢物語、宇治拾遺物語などがあるし、対象はさまざまである。
これらの絵巻物も、斜め上からの視点で描かれていて、ふつうの人間には見ることができないはずである。
まあ、たしかに人間の視点から描いたら奥行きが出ないし、限られた紙面に多くのものを描こうとしたら、必然的にこうなってしまったのだろうか。
鳥瞰図というのは、英語では“bird's eye view"というらしく、上から下を見下ろす「俯瞰」というものである。
これに対して、下から上を仰ぎ見る「仰瞰」というものがあるらしく、鳥瞰にたいして虫瞰と言うのだそうだ。
海面から海底を見下ろした鯨瞰図や、海から陸を見た亀瞰図もあり、地面の中から上部を見た土竜図もあるというからおもしろい。
屏風と絵巻は、作られた時代や目的、大きさなどがまったく違っている。
ただ、人間が見ることのできない視点で描かれているというところが、共通している。
そして、壁や天井をないものとして省略してしまったところで、二重に想像力を働かせている。
今は、ドローンというものがある。
セスナやヘリコプターを飛ばさなくても、空から地上を見られる。
ハンググライダーというものもあるが、スピードが出過ぎる。
ドローンは、ホバリングというのかな、空中に停止するやつ、それだってできる。
人間がはるか昔から、想像力をはたらかしてやってきたことが、簡単にできる。
でも、写真では分からないことが、絵だからよくわかるってこともあるんだな。