山へ行こうと思ったら、地図を用意しなければならない。
有名な観光地にあるような山だったら登山地図が専門の出版社から発行されている。
それが無いような地味な山だったら、国土地理院の地図である。
五万分の一と二万五千分の一の二種類あるが、登山には二万五千分の一である。
ちょっとした書店であれば、地図用の大きな引き出しが店舗のすみにある。
3色刷が356円、多色刷が435円。
国土地理院の地図は、登山道が点線で表示してあるぐらいで、登山地図の至れり尽くせりのデータ量に比べて圧倒的にシンプルである。
そこは、自分で肉付けしなければならない。
最近は、地図を新しく用意して出かけるような登山をしていない。
ほとんどが、ハイキングして温泉に泊まりになっている。
ネットで登山地図を調べていたら、「山と渓谷社」のサイトで登山地図が印刷やダウンロードできることがわかった。
ためしに、やってみた。
細かい地名やトイレの表示がある。
なんと水場、山小屋、神社、祠の名称や、コースの所要時間まである。
すばらしい。
「山と渓谷」は、若い頃毎月欠かさず買っていた。
かなり、お世話になっていた。
けっこう厚手の月刊誌なのでかさばる。処分してしまった。
そうか、今はこういう時代なんだ。
地図を眺めているのが好きな人間なので、国土地理院の地図がドンドン増えていく頃、日本地図帳や世界地図帳も揃えていた。
もっと本格的なのが欲しくなって探して買った。
「日本分県地図」と「World Atras」図書館にあるような大判で厚いやつである。
日本地図は表示がビニール張りで世界地図の方は布張りだった。
どちらも、3万円以上したと思う。
地図というものは、やっぱりいつも手元にあって、手軽に見るのがいい。
あまりにも重厚過ぎて、見ている機会が少なかった。
最近、古地図に興味が出て図書館の地図コーナーによく行く。
思うのは、世の中にはいろんな奇特な人がいるもんだな、ということ。
地図に関するものは、地図集も多いが、研究の書籍も多い。
世界で発行された日本地図を求めて世界中を回って収集して、研究したという地図集がある。
反対に、日本で発行された世界地図を研究した地図集もある。
そういうものは貸し出し禁止なので、図書館に通って眺めてるしかない。
日本地図も、昔の国々が団子になってそれを積み重ねて日本列島になったような地図から、伊能地図のように、大勢の人間がひたすら歩いて測量してその結果として完成した地図になって行く。
若い頃、職場の後輩が新婚旅行でヨーロッパへ行って、私におみやげをくれたことがある。
ヨーロッパアルプスの地図だった。
彼は、私が登山が趣味であることを知っていて、それを 選んでくれたのだ。
うれしかったな。
スイス製だったと思うが、日本の地図と違う不思議な感じのものだった。
明治時代、日本の地図は陸軍が軍事的必要から作成した「迅速測図地図」から始まった。
それは、フランス式彩色地図といわれるものであり、手書きで欄外に目標物となるような景色や建造物が描かれていた。
その後、フランス式から、ドイツ式の地図様式に切り替えられた。
今の国土地理院の地図が、シンプルでやや面白味に欠けるのはそのせいかも知れない。
もしも、フランス式のままだったらどんな感じだったんだろう。
「もしも」は、意味がないとは思いながらも、考えてしまう。
就職して同期の一人が、地理学科出身であることを知った。
そういう手が、あったのかと思った。
私は、法律学科を選んでいた。
法律は、それまでに持っていなかったものの見方を教えてくれた。
自分は、好きなもの、やりたいものを選択するところにいなかったんだな、と思った。