晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

おののふるさと③ 菅江真澄テキスト

六日 空うらゝかにいとよし。

岩碕(崎)といふ村に行とて、杉沢(湯沢市)とかやいふ村中に、垣ねおしめぐらして黄なる花咲たり。

この花は、むつきのはじめ、いまだ雪のかゝりたる垣ねに匂ふ万作といふ花〔木まんさく、草まんさくとてあり。草万作は福寿草のことなり〕〔天註‐‐まんさくは青葙にて宇末佐久ならんかし〕なり。

此里のことわざに、「まんさくは雪のなかよりいそげども、はなは咲ども実はならぬ」とうたふ。其花の枝をとびめぐるも、よしありげにおかしければ、

 

   住やたれいざとぶらはん鶯も宿とたのまんさく花の陰

 

いはさき(岩崎)になりて石川氏が家に五六日ありて、山かげの雪もやをら消はてゝければ、いざ野遊びしてんとて、やのめぐりをいさゝかのぼりて、たかだてといふところあり。

石田大膳といふぬしのすみかのあとなり。

承享(文禄)の頃、最上源五郎義光のいくさし給ふにとられてけり。林泉のあと残りてけるを見れば、年ふれ松をからかさといひ、ながるゝ水を皆瀬川といふ。

此河のあなたをば平鹿郡といふ。

雪のむら消たるを磨戸山(平賀郡増田町真人山)といふ。

比山にいにしへ鷹のみつの子をうみてければ、其おや鷹、朝夕比こをはぐくみありくを、鷲つとび来て、さきくらひたり。

こを子鷹やすからずおもひけん、其わし、たゞちにこの三のたかにとられたりけりとか。

こは鳩をかたらひて、わしをくひふしたるともいふものがたりありき。

はた、ふるき歌に、

「出羽なるひらかの三鷹たちかへりおやのためには鷲もとる也」

こゝろは、其ものがたりを光俊よみ給ひしならんか。

こを、ひたにずして、遠方のたけ/″\を見やりて、

 

   花もいまひらかの山のそれならで木のまにしろき雪のむらぎえ

 

こなたの霞の上に、鳥海山のそびへたちたる真白のすがたは、ふじ(富士)にたとへつべう見えたり。

又外山のいたゞきに両下(千木)のありける家は、秋のころ鳩をいくつも糸つなぎおけば、あまつ空に行鷹のとびくだりてける。

比鳩は七霞を見通す、まなことき鳥なれば、おぢおそりて尾羽うち叩ておどろきさはぎけるに、ほとほなく鷹のくだりて鳩をつかまんとほりすれば、此鷹、網引かぶせでとらへける、鷹まちのやなりといふ。

春は、やま帰りとてよからぬ鷹なれば、来しともまたじと、なめらかなる苔のむしろに円居してかたる。

夕ぐれの空たど/\しきまでありてかへらんといふに、御寺の西のたかゝらぬ山を、毛なしと呼を聞て戯れ歌

 

   たれかいつこゝに其名をつけびんや毛なしの山も夕月のかげ

 

といへば、聞人おとがひをはなち、手をうちてわらふ。

里の中路を来れば、わらぶきのふせるがごときさゝやかの家に、ものゝ音したるを、人たゝずみてきく。

何ならんとおもへば、眼見えたる梓みこの弓をはぢきて、なきたまを、かたはらにあるがごとくいひ、なり行など、たなごころをさすにひとしうかたれば、人々なみだこぼしなくめるに、

 

   梓弓とるにひかれてなきたまのたどりやくらし夕暮の空

 

と、かく作たれば、いよゝ人なみだおしぬぐひて、やをら家路にかへる。

おぼろならぬ月影に、すぢあきらかなり。

十一日 庚申すとて物かたらヘば、うつばりの鶏かけろと鳴たり。

いざ枕とらんとすれば、なへ(地震)いたくふりぬるとき、人々声をそろへて、万歳楽/\と唱ふ。

このいもゐ(精進)したる人ども、庭の面にむしろしきて西のかたをふしをがみ、ぬか三たびつきてふしぬ。

十二日 まだ冬枯のまゝなる梅の梢に鶯の声おもしろくて、

 

   梅が枝はいろこそみえね鶯の声のみ匂ふ庭の一本

 

十三日 月のおもしろさに軒ちかくをれば、ひぢまくらにうたゝねしたる女、かしらもたげて、ちやこ/\〔猫をよばふに、ちやこ/\といふ、みちのおくにては、たことよぶ也〕と、猫よぶかとおもひつれば、ふりたる井のひきがへるなるよ。

こをむかしみしかど、あし手などに毛のいたく生ひてけり。

こは、かぶろわらし〔小童をいふ〕へんぐゑ(変化)待らん。

あなおそろし、身の毛いよだちたりとて、おくふかう去ぬ。

十四日 よべより風吹雨頗て、辰の時ばかり、いかづちおちかゝるべう鳴わたり電ひらめきたるに、たんばの木、又しこのへ、しころともいふ〔黄檗の木〕梢に、だを鳥〔鴾をいへり〕の集りたるが、比ひゞきにおどろきて、むら/\とさはぎたり。

十五日 けふは、やさらとひ、てんげともいひて、田の面におりたち、畑うち初る日のいはひとて、家毎にもち飯うすつきたり。

十六日、十七日、十八日、日毎に雨ふれり。

男等耕をるを、こと田、遠の干町などの男、たがひに手して、うまねきて一ところに集ひて、これを、ぼひあげ(追い上げ)とて日なかばにわざをとヾめ、みなやにかへりては四五日もやすらひてけるならはしを、春田うつにはたび/\せりけるとぞ。

十九日 例のごとにふる城のあとに遊びて、がたこの花〔かたくりともいふ旱藕のことなり〕にまじり咲たる童のありけるを、女のわらは、こは里かたこのとつみとりぬ。

すみれ草をさとかたこばなとはいふなり。

おもひしことを、

 

   むかしたれこゝにすみれの跡しるく生ふるを春の形見にぞつむ

 

男女声のがぎりうちあげて、

「いはざさきたてのみこしの沢かじか、日さへくれゝばこちや/\と」

諷ふによそふ。

 

   長開しなうたひ暮して春の野の浅芽が上にむれるさとの子

 

さかしきみちをくだりて、小川にそひていづるへたに、こぶし〔莘荑〕の花咲たる梢に風吹わたるをあふぎて、

 

   吹まゝに北の梢のしら露も風にこぶしの匂ふ夕ぐれ

 

やにかへれば雨ふり出たり。

二十日 よんべより雨ふりをやみなう冴えかへりたれば、埋火のもとさらで暮たり。

廿一日 きのふのごとし。

廿三日 雪のいさゝか降ぬる垣ねに、咲そめ上る花のめづらし。

これを柴桜といひ、又の名を苗代のをりにあひて匂ふとて、たねまきざくらといふ。

此花は甲斐の国の山中にてみたり。

ひがん桜にひとし。鶯の鳴たるを、

 

   しら雪のふるかとみれば芝桜しば/\来鳴軒のうぐひす

 

 

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