五日 かきねゆひめぐらしたるうちに、何の花ならん、雪のふりたるやうにちりたるをとへば、あむず(杏)の花なりけるよしをこたふに、
家づとにおられしとあむすいかいのあなたの花はちり過にけり
六日 やけ野に生ひたる、さゝやかのくさびら(茸)を人のくれたり。
うまさ、にるべうたぐひなし。なは何とかいひてん。已の時ばかり雨ははれたり。
七日 近きさかひの花見ありきて、夕ちかう帰る。
杜のした路に至れば、茂りたる柳の梢に風おちて、なにくれの花ちりぬれば、とゞまりて、
又たぐひ嵐になびく青柳のいとかけとめよ花の梢に
八日 杉のみや(羽後町)の神の祭りなりとて、人むれてまいりぬ。
きのふより風のこゝちして、比おほんかんわざにもまうで奉らず、はるかにぬさとりをれば、梅、桜、もも、なしなど枝をまじへて咲たるにがくろひて、から/\じ(おおよしきり)といふ鳥、声もさらずさへづるもおかし。
門にたちて眼なき女、左右の手に、木の実の黒きずゞのいと長きをの末に、けものゝ角、貝がらなどつなぎ、ひたにすり/\ならして、「あなおもしろの」とうたふは、ゑびすかぜといふものにて、うらとひなどをわざに世をわたる女なりとて、よね、おしきに盛てやりぬ。
九日 由左磐(湯沢)にまかみちに人つどひ行は、貝沢(羽後町)の里の淵祭りとて、水神のかんわざにまうづる也。
女、此川べたに立で菅笠うち入てながしたるは、子めやく生べき願ひのかなひたる手向となん。
山田何がしがやにつけば、久保田の里の真崎北溟といへる人ひねもすかたらひて、題五をかいて、是に歌よみてよ、みな、かた(絵)にかゝんといへるにいなみがたくて、当坐にせり。
山家花
世中のうきにかえたるおく山もこゝろうつろふ花の下庵
漁家花
さすかたにさゝでやつりのいとなみも花にひかるゝ春の浦人
田家花
せきいるゝ苗代水もいろ深み田づらの里の花の盛は
娼家花
河竹の世のうきふしもわすられて花にうかるゝ此頃の空
侯家花
ものゝふのやたけこゝろも盛なる花にやはらぐ春の長閑さ
あるじ、こはすみやかなると、まきをさめてけり。
十日 まさき北溟のぬし、けふなん出たちけるとて、れいの、つかみじかき筆して、
「相遇暫時復相別、離莚握手酒盃清、梅花枝上残花雪、君似東西南北行」
といふ、からうたかいつきて見せけるに、われも又此ぬしにむくふとて、
花に馴れ月にかたりし旅衣あかぬ色香に立別ぬる
やのあるじ、花見にまからん、山ふみに行なんやといざなはれて、大なろ桜の盛はけふ過てんと見えて、なかばは散たるをあふぎて過行に、
山風の吹来るたびにゆきかひの折らでぞかざす花のした路
かくて神のおまします玉垣に入ば、うちとのみやしろをきよらかに作り奉りたるに、ぬさたいまつりてけり。
こなたの舞どのに男集りて、つゞみうち、三のを(三味線)こゝらはぢきてあそぶ中に見しりたる男、手してまねきたるに入ば酒すゝめ、さかなは、くき〔川いをの名也〕ますのいを、みな楢のわか葉に盛わかちて、やにゐたらんよりは、たのしさいかゞあらん、これこしめせ/\と持出たる男、やがてゑひて、ひざおしたて、つらおしぬぐひ戯をせり。
野遊にやあらん、わかき老たる女七人、はしごよりのぼり来て、こは、ゆくりなふまみえたるなど、手をみなひてゝものいふに、さかづきとらせて酒しひぞし、なによけんと、さかなものしければ、なみ居る人のつらは、青葉さす夏山の紅葉したるとやいはん、夕日かげにてりそひたり。
老たる女手をうち出たるに、こゝらの人ゑひしれてうたふにあはせて、いとわかき女顔そむけて、〔蛙なく野中のしみづ〕とうたひ出れば、男女はな声にうたひつぎ、あらぬさまにほうし(拍子)とり、つゞみならすに、としは八十七十にやならん女の、みつわざしたる腰をのばし、雪をかざしたるかうべをふり、ふるひたる声にしはぶき/\手を叩て舞ふに、そがゆかりの人にやあらん、むねいたきふりして、とに出たり。扇ひらいて肩ぬぎたる男、やがてたぐりせりければ、犬のはいわたるなど風情もあらざれば、遠方を望みつゝかたはらされば、高山のいたヾきに雪はのせたるがごとくけち残り、ちかき里の家毎の花は、うれのみあらはれたり。わか葉の梢に風すずしく吹て、遠近のながめいとよし。
女ひとり、とに出て、
「朝の出かけにやま/\見れば、露のかゝらぬ山もなし」
あなる山のをぐら(小暗)きよ、もや〔霧霞のたぐいひをもやといへり〕ならん、雪あるこなたよりは、けぶりたつとゆびさし、しろくよこたはれるながれは、みな川と、やにあるかぎり、みな出てのぞむ。
あなたは、はかまこし山、松岡(湯沢市)などかぞへたり。あるふみに、
「嚼宮、、駒形荘在於松岡村〔古■村〕瑞崎或云訟岡山。所祭神一坐素戔嗚尊、或云、合祭大日孁(おおひるめ)尊謂嚼大明神、小宮猶存有祭日別当」
と聞えたるは、あなたにてぞあるなリ。
夕になりてかがへる。
十一日 夕より雨そぼふりたり。
十二日 きのふより、くすし榎本氏英が家に在て、市のあきなふものをみれば、わかいといふくさびら、すゞのたかうな(ねまがりだけの筍)よりでとて、あけびといふ草のわかゝづら、とりつかねてうる。
ゆふ附行ころ、みたけとやらんいふ山のあたりを郵会のはじめて鳴たるは、めづらしとおもふに、いづこにがざりぬ。
た郭公のはじめて鳴いたるは、めづらしとおもふに、いづこにかさりぬ。たづねいかんにも、あし垣ゆひめぐらしたれば、すべなくたゝずみて、
あし坦のあたたの空の郭公夕月影に声なへだてそ