晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

おののふるさと⑤ 菅江真澄テキスト

五日 かきねゆひめぐらしたるうちに、何の花ならん、雪のふりたるやうにちりたるをとへば、あむず(杏)の花なりけるよしをこたふに、

 

   家づとにおられしとあむすいかいのあなたの花はちり過にけり

 

六日 やけ野に生ひたる、さゝやかのくさびら(茸)を人のくれたり。

うまさ、にるべうたぐひなし。なは何とかいひてん。已の時ばかり雨ははれたり。

七日 近きさかひの花見ありきて、夕ちかう帰る。

杜のした路に至れば、茂りたる柳の梢に風おちて、なにくれの花ちりぬれば、とゞまりて、

 

   又たぐひ嵐になびく青柳のいとかけとめよ花の梢に

 

八日 杉のみや(羽後町)の神の祭りなりとて、人むれてまいりぬ。

きのふより風のこゝちして、比おほんかんわざにもまうで奉らず、はるかにぬさとりをれば、梅、桜、もも、なしなど枝をまじへて咲たるにがくろひて、から/\じ(おおよしきり)といふ鳥、声もさらずさへづるもおかし。

門にたちて眼なき女、左右の手に、木の実の黒きずゞのいと長きをの末に、けものゝ角、貝がらなどつなぎ、ひたにすり/\ならして、「あなおもしろの」とうたふは、ゑびすかぜといふものにて、うらとひなどをわざに世をわたる女なりとて、よね、おしきに盛てやりぬ。

九日 由左磐(湯沢)にまかみちに人つどひ行は、貝沢(羽後町)の里の淵祭りとて、水神のかんわざにまうづる也。

女、此川べたに立で菅笠うち入てながしたるは、子めやく生べき願ひのかなひたる手向となん。

山田何がしがやにつけば、久保田の里の真崎北溟といへる人ひねもすかたらひて、題五をかいて、是に歌よみてよ、みな、かた(絵)にかゝんといへるにいなみがたくて、当坐にせり。

 

山家花

   世中のうきにかえたるおく山もこゝろうつろふ花の下庵

 

漁家花

   さすかたにさゝでやつりのいとなみも花にひかるゝ春の浦人

 

田家花

   せきいるゝ苗代水もいろ深み田づらの里の花の盛は

 

娼家花

   河竹の世のうきふしもわすられて花にうかるゝ此頃の空

 

侯家花

   ものゝふのやたけこゝろも盛なる花にやはらぐ春の長閑さ

 

あるじ、こはすみやかなると、まきをさめてけり。

十日 まさき北溟のぬし、けふなん出たちけるとて、れいの、つかみじかき筆して、

「相遇暫時復相別、離莚握手酒盃清、梅花枝上残花雪、君似東西南北行

といふ、からうたかいつきて見せけるに、われも又此ぬしにむくふとて、

 

   花に馴れ月にかたりし旅衣あかぬ色香に立別ぬる

 

やのあるじ、花見にまからん、山ふみに行なんやといざなはれて、大なろ桜の盛はけふ過てんと見えて、なかばは散たるをあふぎて過行に、

   山風の吹来るたびにゆきかひの折らでぞかざす花のした路

 

かくて神のおまします玉垣に入ば、うちとのみやしろをきよらかに作り奉りたるに、ぬさたいまつりてけり。

こなたの舞どのに男集りて、つゞみうち、三のを(三味線)こゝらはぢきてあそぶ中に見しりたる男、手してまねきたるに入ば酒すゝめ、さかなは、くき〔川いをの名也〕ますのいを、みな楢のわか葉に盛わかちて、やにゐたらんよりは、たのしさいかゞあらん、これこしめせ/\と持出たる男、やがてゑひて、ひざおしたて、つらおしぬぐひ戯をせり。

野遊にやあらん、わかき老たる女七人、はしごよりのぼり来て、こは、ゆくりなふまみえたるなど、手をみなひてゝものいふに、さかづきとらせて酒しひぞし、なによけんと、さかなものしければ、なみ居る人のつらは、青葉さす夏山の紅葉したるとやいはん、夕日かげにてりそひたり。

老たる女手をうち出たるに、こゝらの人ゑひしれてうたふにあはせて、いとわかき女顔そむけて、〔蛙なく野中のしみづ〕とうたひ出れば、男女はな声にうたひつぎ、あらぬさまにほうし(拍子)とり、つゞみならすに、としは八十七十にやならん女の、みつわざしたる腰をのばし、雪をかざしたるかうべをふり、ふるひたる声にしはぶき/\手を叩て舞ふに、そがゆかりの人にやあらん、むねいたきふりして、とに出たり。扇ひらいて肩ぬぎたる男、やがてたぐりせりければ、犬のはいわたるなど風情もあらざれば、遠方を望みつゝかたはらされば、高山のいたヾきに雪はのせたるがごとくけち残り、ちかき里の家毎の花は、うれのみあらはれたり。わか葉の梢に風すずしく吹て、遠近のながめいとよし。

女ひとり、とに出て、

「朝の出かけにやま/\見れば、露のかゝらぬ山もなし」

あなる山のをぐら(小暗)きよ、もや〔霧霞のたぐいひをもやといへり〕ならん、雪あるこなたよりは、けぶりたつとゆびさし、しろくよこたはれるながれは、みな川と、やにあるかぎり、みな出てのぞむ。

あなたは、はかまこし山、松岡(湯沢市)などかぞへたり。あるふみに、

「嚼宮、、駒形荘在於松岡村〔古■村〕瑞崎或云訟岡山。所祭神一坐素戔嗚尊、或云、合祭大日孁(おおひるめ)尊謂嚼大明神、小宮猶存有祭日別当

と聞えたるは、あなたにてぞあるなリ。

夕になりてかがへる。

十一日 夕より雨そぼふりたり。

十二日 きのふより、くすし榎本氏英が家に在て、市のあきなふものをみれば、わかいといふくさびら、すゞのたかうな(ねまがりだけの筍)よりでとて、あけびといふ草のわかゝづら、とりつかねてうる。

ゆふ附行ころ、みたけとやらんいふ山のあたりを郵会のはじめて鳴たるは、めづらしとおもふに、いづこにがざりぬ。

た郭公のはじめて鳴いたるは、めづらしとおもふに、いづこにかさりぬ。たづねいかんにも、あし垣ゆひめぐらしたれば、すべなくたゝずみて、

 

   あし坦のあたたの空の郭公夕月影に声なへだてそ

 

 

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