晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

くめじのはし⑨ 菅江真澄テキスト

f:id:seiko_udoku:20211024142629j:plain

久目路乃橋より 秋田県立図書館デジタルアーカイブ

かくて、此寺に近き家に宿つきぬ。

女の童雨ふれ/\といふに、いろはにやあらん、かまけるな、こよひはふりなん、雲のたたずまゐいとよし。

ことかたは、をり/\ふりけれど、此山は水無月十日斗にふりたるまま、小雨だにそぼふらで、ものみなかれうせなんとと(外)に立ていへば、わらは、わがうへたる山桜草、玉すだれもかれ行ぬとて、ちいさき岩のあはひにあるに、水もてそそぎありく。

 

いく世々といはねに生る玉簾かけて久しき根さしなるらむ

 

くれ行ば、あるじの翁、くろ木のをまくらとり持ち投出して、そべれといへば、ふしたり。

廿七日 つとめておき出れば、高根のしら雲ふかうかかりて、ひま/\に、岩群のもりあらはれたるは風情こと也。

 

日の光四方に見づらし明らけくあけ初にけり戸隠の山

 

けふは御射山祭のいはひとて、紅豆の飯を家ごとにたきて、青箸とて薄、あるは、かやの折はしにてものくひ、神のみまへ、阿伽棚にも尾花をり手向たるは、此国のならはし也。

やを出て、ひのみこのふた桜とて二本ある桜あり。

この樹、春ごとにも花さかねど、としふり名ある木也とて、人のあなひしてをしゆ。

この祠には栲幡千千姫をいはい、宝光院の祠には表晴命をまつり奉るとなん。

鷹ひとつ鳥をかけ落し、よこぎる羽音すさまじ。

こや、けふあへるは、

 

「苅て葺く穂やの薄の美作山にかまはやぶさや御鷹なるらん」

 

と、ながめありける歌の如く、鎌鶻といふものにてやあらん。

かまはやぶざは、翅の羽すゑに鎌のごとなるところありて、鳥の頸かいくるとも、又はやぶさの八の、やいがまの、とがまのやうにて、よく鳥をがき切ける一メJjやぶ

ゼピ∵けポのみさやまに、むかしはかならず出て諏訪の神の賛になれば、この名を賛鷹ともいひ、手向丸とも

いひて、かならず逸物のいでくもの也と世にいひつたふる、それにてやあらん。

 

鷹の名のかまはやぶさは刈てふくほやのめぐりにけふや出らん

 

飯繩山の麓の原に雨ふり出て、たどる/\そぼぬれて、みちふみ迷ひほそぢに入れば、子ひとつ連れたるあら熊の、高草をけたてて、あが行前をよこぎれてはしり過る。

おそろしさ、たましゐ身を離れたるここちながら、猶その行かたを見やりつつ、

 

月の輪のかげ見るほどもあら熊のさし入かたは山ふかくして

 

軍陀利村をいづれば、谷ふかう、おかしく落くる滝あり。

揚屋村をへて、桜といふところあり。

 

村の名のさくら麻苧を糸によりていとなく衣をらん乙女子

 

雨いたくふれば、日たかく越といふ里に宿とる。

ぬれたる袖をほしねと人のいへば、

 

このままにかたしきてねん露雫雨に沾れこしたびの衣手

 

廿八日 山本晴慎のやをあしたにとぶらひ、あるじとしばしものかたらひて、妻科神社にぬさとり奉らんとて出ぬ。

此かん籬を里人は、妻梨子ともはらいひき。

路のかたはらの井は、戸隠山にて人の語たる、鳴子清水にこそ。

 

夜な/\は月やすむらんやがて又秋も半になるこ井の水

 

海なきくにながら、此とは井の水みな鹹しといふ。

社の辺に立たる石を、いやし、をがむ人あり。

いかなる神にてかととへば、いらへて、こは北むきの道陸神とて、ひのもとに、ただ三のおましある其ひとつなりとか。

いはくらになりて、

 

いもとせの中まもりませと行末を祈やすらん妻科の神

 

さきの宿に帰りてくれ行ころ、毘義といふ人もとぶらひ来て、夜ひとよ歌よんであけたり。

廿九日 ここを出たつに、

 

越の海の波路行とも更級の月の頃には立かへり見よ

 

となん、あるじ晴慎のいへる返し。

 

こしの梅浪へだつとも立帰り来て更科の月は見なまし

 

かくて此処を出て風間神社を尋れば、かざま村におましあり。

神代といふ村あり。

ここのかんがきこそ伊豆神社なりけれ。

相之木といふ処の南の森に、鳥居の三ッ立たりける、そこを三輪村とよぶ。

すなはち美和神社にて、粟野神社は横山の郷に近し。

揚ケ松といふ処の山中に到れば、石脳油の涌づるをくむ井、川をへだてて二までならびたり。

このあぶらは、越後路の臭水に凡似たりけるよしをいへり。

かた岨のいと高き処に、不落堂とて、斐陀のたくみらが、一夜のまに柱一もとにて建たるに、薬師ぶちをおき奉るといふ。

伺去といふ村に来てやに入てうちやすらふに、ニッ子のわがもとにはひよりくれば、ものとらせんとすれば、あとさりにさりてなき出ぬ。

母かかへて、わにたるか、死たる兄とはたがひて人めせり。

いまは是ひとり力草とて、めでくつがへしぬ。

名は何といふととへば、砌に小松の生たるを手さしして、それにて侍るといふは、松といふ名にこそ。

戯れて、

 

門のとの松にたぐえん里の名のしさりてあそぶちごの行末

 

 

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp

seiko-udoku.hatenadiary.jp