晴耕雨読    趣味と生活の覚書

  1953年秋田県生まれ。趣味は、山、本、音楽、PC、その他。硬化しつつある頭を柔軟にすべく、思いつくことをなんでも書いています。あわせて、江戸時代後期の紀行家菅江真澄の原文テキストを載せていきます。

国名について調べてみた⑧ 武蔵国編

これは、私の日本の歴史の勉強のための覚書です。調べたこと、考えたことを書きとめてます。 令制国というものに興味があって、気が向けば調べたりしています。

 

現在、東京都と千葉県の境は、江戸川である。

江戸川は、茨城県猿島郡五霞町と千葉県野田市の付近にある関宿分岐点で利根川から分かれて、千葉県と埼玉県、東京都との境を南下している。

千葉県市川市付近で、本流である江戸川と旧流路である旧江戸川に分かれる。

千葉県と東京都の境は、旧江戸川であり、江戸川と旧江戸川に挟まれた地域は、千葉県であり、浦安市市川市の一部である。

 

江戸川が、武蔵国下総国の境とされたのは、1683年(天和3年)といわれるが、寛永年間(1624〜1645年)という説もある。

それまでは、埼玉県久喜市あたりからの大落古利根川隅田川を流れて、江戸湾に注いでいた。 

江戸川は、もともとは太日川、太日河(おおいがわ、または、ふといがわ)と呼ばれ、渡良瀬川下流部であった。

現在の五霞町元栗橋の西を南流し、権現堂川の河道を通り、下総国葛飾郡の中央を南下して江戸湾に注いでいた。

それが、利根川東遷事業によって、江戸川に利根川の水が流れるように、1641年に、江戸川上流部が人工水路として開削された。

 

江戸川が、武蔵国下総国の境となったことによって、それまで下総国葛飾郡だった地域は分割されることになった。

武蔵国葛飾郡となったのは、次の地域である。

東京都葛飾区、江戸川区墨田区江東区、足立区。

埼玉県三郷市吉川市の全域。

   幸手市北葛飾郡松伏町杉戸町さいたま市越谷市春日部市久喜市

   加須市の一部。

 

武蔵国は、令制国への移行によって、无邪志国(むざしの国)と知々夫国(ちちぶのくに)の二国を統合して発足している。

武蔵国が、のちに東京都と埼玉県に分割されることを考えると、結局もとに戻ったような感じもする。

当初は、武蔵国の北部において毛野国との関係が深く、東山道に属していたが、その後南部において相模国及び東京湾を経由する往来が盛んになり、771年に東海道に移管している。

また、武蔵国国府は、当時の多磨郡、現在の府中市に置かれていた。

国分寺国分尼寺もまた、国分寺市にあったことを考えると、武蔵国の中心は内陸部であったのだろう。

 

武蔵国(むさしのくに)の「むさし」の起源については、諸説あり定説がないようだ。

江戸時代中期の国学者である賀茂真淵は、「倭訓栞」で次のように述べている。

「身狭(むさ)国があり、のち身狭上(むさがみ)・身狭下(むさしも)に分かれて相模、武蔵となった」

賀茂真淵の弟子であった本居宣長は、「古事記伝」で次のように述べた。

武蔵国は、駿河・相模と共に佐斯(さしのくに)と呼ばれ、のちに佐斯上(さしがみ)下佐斯(しもざし)に分かれ、これが転訛し相模・武蔵となった」

そして、幕末明治期の国学者である近藤芳樹は、「陸路廼記」で次のように述べている。

「総国(ふさのくに)の一部が分割され総上(ふさがみ)・総下(ふさしも)となり、それぞれ相模・武蔵となった」

いずれも、決定的な資料に欠け、説得力に乏しいようである。

 

「むさし」の表記については、木簡などの記録では、「むざし」となっているものが多いようである。

旡耶志、牟射志、無邪志、旡邪志、胸刺、といった表記が見られ、「むざし」に字を当てたものであろうが、牟佐志という「むさし」と思われるものもある。

しかし、令制国の移行の際に、「武蔵国」という表記になっている。

「武」は「む」の音を当ててあるのだろうが、「蔵」の字で、「さし」と読ませるのには、いったいどんな意味があるのだろうか。

どう考えても、これを「さし」とは読めない。

令制国移行前は、国名は万葉仮名のような一音一字の表記をしていた。

それが、「好字二字」という方針により、国名や郡名などの地名の表記の変更が大規模に行われた。

この結果、わかりにくいことが多くなってしまったんだろうな。

 

 

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